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遺言について(その2)(弁護士 松浦 里美)

  • 2012.7.4

それでは,さっそく中身に入っていくことにします。
みなさん,遺言と聞いて,どのようなイメージを持たれるでしょうか。私は遺言を考えるにあたっては,①遺産に関する紛争(トラブル)の予防,②自分が死んだあと新たな権利義務をつくる,③遺族や社会に対する最後のメッセージの3つの側面があると考えています。
まず,①遺産に関する紛争(トラブル)の予防の点についてです。私たち弁護士が行う日々の業務のなかで,遺産をめぐるトラブルというのは,決して少なくありません。むしろ多いといったほうがよいでしょうか。そして,弁護士のところにまで相談が来るケースというのは,往々にして,いろいろな意味で混み合っており,すぐすぐの解決に至らないことが多々あります。そんなとき,「遺言さえあったら,こんなトラブルにはならなかったのにな・・・」と思うことも少なくありません。遺言は,トラブルを回避するために,大きな役割を示します。
では,遺言を書かないでいると,どうなってしまうのでしょうか。遺言がない場合であっても,遺産分割はしなければなりません。では,その場合どうやって遺産分割するかというと,相続人全員が集まり,法定相続分に従って,誰が,何をもらうのかについて話し合いをすることになるのです。
話し合いがスムーズにいけばいいのですが,「この不動産は誰がもらうか」など,具体的な分け方でもめごとになるケースもあります。
話し合いがまとまらない場合には,家庭裁判所に対して調停あるいは審判という手続を申し立てることになります。裁判所まで行けば,最終的には何らかのかたちで遺産分割はできることになりますが,最終的な解決までは,時間も労力もかかることになることはご想像いただけることだと思います。何よりも,身内で争わないといけないことになる精神的な苦痛は少なくありません。
ここまでお話して,皆さん思われるのが,「まさか,自分の家にかぎって・・・」というお気持ちだと思います。そのように思われる背景としましては,うちは家族全員仲がいい,ですとか,そもそも争いになるほどの財産はない,とか,いろんな背景があると思われます。しかし,皆さんによく考えていただきたいのは,今,遺産分割でトラブルになっているケースが全て相続が始まる前からもめていたわけではない,逆にいうと,相続が開始したことによって家族内にトラブルが起こる場合も十分ありえるということです。財産についても,額の多寡にかかわらず,「もらえるものならもらいたい」と考える方がほとんどではないでしょうか。よくあるケースは,相続人の配偶者が口を出すケースです。例えば,父親が亡くなって,その子ども達だけが相続人である場合に,相続人自身は遺産分割の内容に納得しているけれど,その奥さんが口を出し,結果,遺産分割がまとまらないということが多々あります。
また,相続税の申告期限は,相続開始後10か月とされていますが,その期間内に遺産分割の内容が確定しないと,各種の税金の軽減措置を受けられないというデメリットもあります。