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ある無罪事件(弁護士 真早流 踏雄)

  • 2014.7.25

車の運転をする方でしたら,交通事故に遭って保険の請求をすることが1度や2度はあるでしょう。それが思わぬ逮捕に結びついた事件に出会いました。

A君は,以前暴走族をしていたことがあったらしく,眉を剃ったような一見いかつい顔つきですが,実際には,礼儀正しく,人懐こい笑顔の,気持ちの良い青年でした。
彼は,交通事故に遭って通院したので保険金の請求をすることにしたのですが,初めてのことだったため,親から紹介された保険代理店を営むB氏に相談しました。
彼は,事故に遭った当時,本業を休んで健康食品の販売をしていたことがあったため,休業損害証明書の書き方がわからず,B氏に休業損害証明書を作ってもらい,それを保険会社に出して,休業補償金を受け取りました。
そのことが,実際よりも多く休業したとB氏を騙して休業損害証明書を作らせて余分な保険金を受け取ったとして,逮捕・起訴されたのです。
A君は,B氏に本業を休んで健康食品の販売をしていたことなどを正直に話して休業損害証明書を作ってもらったのであるから騙していないと公判で主張して無罪を争いました。
しかし,1審,2審とも有罪になってしまい,もうだめかと思いましたが,最高裁は,「本件は詐欺の外形的行為はあるが積極的に騙そうという詐欺の故意がなかった」と認定し,ようやく無罪になることができました。

「まだ最高裁がある!」という言葉を聞いたことがありますが,まさに,それを地で行く事件でした。