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スピードについていけない!?(弁護士 松田 幸子)

  • 2025.11.12

コロナ禍を経て、オンライン会議やハイブリッド講演会・シンポジュウムの案内が目白押しです。ついつい、参加登録してしまい、それを忘れてダブルブッキング、さらにそれも忘れて当日どちらも参加しそびれ・・などということさえあります。

世の中を見渡せば、チャットGPTとか、GeminiとかのAI活用術。裁判もオンライン化されます。私が長年手掛けている離婚や家庭の問題も来年度には離婚後の共同親権が取り入れられ、これまでとは頭の切り替えが必要になっています。

いよいよ古希まじかになっている私の頭には負担がかなり重く、ひいひい言いながら、付いて行こうと必死です。

2019年から始まったGIGAスクール構想で学校では一人一台のタブレット端末が導入されているようです。費用の問題、ソフト等の更新の問題、さまざまな課題があるようです。一番の問題は学力(思考力・想像力)低下ではないかと勝手に考えています。

私もPCを使うようになり漢字が書けなくなりましたし、ちょっとググればほぼ何でも調べられます(これすら古くて、AIが勝手に回答をまとめてくれます)。調べても覚えなくなり、脳に知識・思想が染み込みません。講演のPPTスライドも、聞いているときは理解の助けにはなりますが、すぐに忘れます(当然ですが、教えられるより教える方、聞く方より話す方が勉強になるのです。)。知識を蓄えたり、記憶することが学力の指標ではなく、思考力・創造力など深い学習と生きる力を育むと言われます。ですが、思考も、創造も、過去の文化の集積を学び、咀嚼する、その先にあるものではないかと思うのです。

今、洪水のようにあふれ変化する情報を咀嚼する余裕がなく、じっくり思考する時間もなく、手っ取り早く効率よく自分に役立つ情報のみに接していないか(好みの広告が勝手に表示されます)、偏った情報のみに晒され、「同じ言葉」「共通の土台」で他の人と交流することが難しくなっていないか、考えさせられます。それは個人の生き方や社会の在り様、そして地球・人類の行く末に大きく関わるように思います。

 

私の郷里の山形県出身の文学博士で梅津濟美(うめつなるみ)という方が「文明を問い直すー一市民の立場よりー」(1979年 2024年復刻版)という著作を残しています。私は全く知りませんでした。

復刻版出版に尽力した名古屋の北村栄弁護士は言います。「現代に生きるための根本の哲学をこれ以上分かりやすく示した本がほかにあるでしょうか。愚かな存在である人間が愚かであることを自覚し、愚かであることにしょげるのではなく、胸を張って生きること、自信をもって生きることの哲学を示した本があるでしょうか。」

科学は、その科学的事実(絶対値)に価値があるのではなく、人間との関係を常に問い直されることが必要だと言います。地球は人間にとっては丸くないのです。我々が立つ地球は平たいとしか見えないのです。

DX時代のスピードについていけない自分にしょげるのではなく、愚かなことを自覚しつつ、咀嚼し、考え、自信をもって発信し、同じ愚かな人間である他の人とゆるやかに交流したいものです。