(弁護士 真早流 踏雄)
1 | 弁護士になって間もない頃です。「人権問題ですから助けて欲しい」との連絡があり,大学生のヨシオ君(仮名)と彼の兄,御両親が相談に来られました。お話は次のようなことでした。 |
① | 事件の発端 ヨシオ君は,大学卒業間際で既に就職も内定しており,学生専門の下宿屋を借りていました。 その下宿屋を営む女性(30歳代後半くらいの丸顔の女性です。「ヨシコ」と呼びます。)から誘惑され,男女の関係を結んでしまいました。 |
② | キツネ目の女の出現 直ぐに,ヨシコの友人というキツネ目をした女性(「キツネ目の女」と呼びます)が現れました。 キツネ目の女は,ヨシオ君にたいして,ヨシコと関係を結んだことを理由に慰謝料を要求してきました。 もちろんヨシオ君は要求を断りました。 |
③ | 「強姦」事件 ヨシオ君が要求を拒むとキツネ目の女はヨシオ君から強姦されたとして強姦罪で刑事告訴をしました。強姦の目撃者がヨシコということでした。 告訴を受けた警察はヨシオ君を逮捕してヨシオ君に強姦を認めさせました。 後日,ヨシオ君に強姦を認めた理由を質したところ,刑事から頭を叩かれたり,怒鳴られたりして苦しかったからだとの説明でした。 検察庁は,担当弁護士がキツネ目の女に50万円を支払って示談すると不起訴にし,ヨシオ君は釈放されました。 |
④ | さらなる脅迫 キツネ目の女は,ヨシオ君に対して,50万円では安すぎるとして更に慰謝料を要求してきました。 ヨシオ君が応じないとなると御両親にたいしても執拗に脅迫電話を入れるようになりました。 ヨシオ君や御両親は刑事事件の担当弁護士に相談しましたが受任してもらえませんでした。 そこで,私の事務所に相談に来られました。それが冒頭の場面です。 |
2 | 誣告罪と脅迫罪でキツネ目の女を刑事告訴 ヨシオ君や御両親のお話から,キツネ目の女とヨシコがグルになって架空の強姦事件を作り上げ,ヨシオ君とその家族からお金を巻き上げようとしていると思われました。 そこで,キツネ目の女からヨシオ君や御両親に架かってきた大量の電話の録音テープを証拠につけて,誣告罪と脅迫罪で,キツネ目の女を刑事告訴しました。 しかし,中々警察は動いてくれず,キツネ目の女からの執拗な電話は続きました。 そこで,警察署に出向いて,担当の刑事課長に捜査の状況を確認したところ,「この事件を立件するのは難しい」と言われました。 それはキツネ目の女からの電話の録音テープを聞いた上での判断かと尋ねたところ,「聞いていない」との返答でした。 そこで,聞いてもいないのにどうして難しいと言うのかと質問したら黙り込んでしまわれました。 そこで,早急に録音テープを聞いて頂き,捜査に着手するよう申し入れました。 |
3 | キツネ目の女の逮捕 警察は,ヨシオ君・兄・両親を,同じ時刻に,警察署まで呼び出し,4人を1人ずつ別々の部屋に通しました。 そして,それぞれにたいして刑事が詳しい事情聴取を行いました。 その結果,4人の供述が完全に一致していたことから,警察は4人が真実を述べていると判断しました。 警察は,ようやくキツネ目の女を誣告罪と脅迫罪で逮捕しました。 検察庁は,誣告罪については起訴しませんでしたが,脅迫罪で起訴しました。 裁判で,キツネ目の女に対し,懲役1年・執行猶予3年位の有罪判決がありました。 |
4 | 後日談 しばらくして,ヨシコの下宿を借りている別の大学生から,ヨシコと男女関係を結んだところ慰謝料を請求されているとの相談を受けました。 ヨシオ君の場合と全く手口が同じであることから,早速,ヨシコ宛てに,その大学生への請求を止めないと刑事告訴をすると書いて送りました。 2,3日後,ヨシコから私に電話が入り,色々言い訳をしていましたが,厳しく言って電話を切りました。その効果か分かりませんが,その大学生への請求は無くなりました。 また,ヨシオ君の御両親から誣告罪が不起訴になったことからヨシオ君の名誉を回復するために検察審査会に不起訴の取消の申立をしたいとの相談もありましたが,私の手に余ることからお断りしました。 弁護士になったばかりで,「女は怖い」と身にしみて感じ入った事件でした。 |