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カジノ視察旅行(弁護士 久保山 博充)

  • 2016.6.16

小学生のころ,家族旅行でハワイに行ったことがあります。時差に負けて旅行中ほとんど眠りこけて親にあきれられたというのが唯一の思い出です。
それから30年,日本から一歩も出ることなく生活してきましたが,先日,長年の引きこもりの殻を破ってシンガポールと韓国に行ってきました。目的はカジノ視察。れっきとした「お仕事」です。平成28年9月に宮崎県弁護士会で「ギャンブル依存症」をテーマに大規模なシンポジウムを開くのですが,それに関連した海外視察調査班の一員として出かけたというわけです。
まずは,シンガポールと韓国のカジノの様子について,私が弁護士会に出した報告書から抜粋して載せます。

シンガポール「マリーナ・ベイ・サンズ・カジノ」
マリーナ・ベイ・サンズ内に設置されたカジノは,専有面積1万5000平方メートル,世界最大級の規模を誇る。
外国人はパスポートを提示することで無料で入場が可能だが,シンガポール国民は,1回の入場ごとに100ドルの入場料が必要となる。
店内は一切撮影禁止であり,随所に監視カメラが設置されていた。カジノ場は1階(喫煙可)と2階(禁煙)が一般フロア,3階以上が,ゴールド会員,VIP会員フロアとなっている。地下1階から吹き抜けで全フロアを見上げることが可能となっており,カジノ場全体の広大さや華やかさを体感させる構造であった(VIP会員からすれば,下層を見下ろし優越感を味わえる構造,ということになろうか)。
客層は様々であり,中華系が多い印象ではあったが,東南アジア系,インド系,白人,そして日本人も多数おり,実に多種多様であった。
ドリンクは無料であり,カジノ場内にレストランも併設されている(なお,VIPルームには,VIP専用の高級レストランが入居しているとのことである)。長時間遊ぶことが可能なように設計されていると感じられた。なお,ギャンブル依存症対策の一環として,カジノ場内にはATMが存在しない。実はカジノ場入口付近には設置されているのだが,1回の入場ごとに入場料が必要となるシンガポール国民にとっては,一応の抑制となるといえる。
ゲーム自体は,スロットマシーン(計1650台)とテーブル(計789台)に分かれ,テーブルでは,ルーレット,大小,カードゲーム(ブラックジャック,バカラ,ポーカーなど)が行われる。

韓国「ウォーカーヒル・カジノ」
ウォーカーヒルカジノは,ソウル市内中心部からは車で20分ほどかかる場所にあるが,仁川カジノに次ぐ歴史があり,16か所の外国人専用カジノ中で最も売上が多い。
地下1階に設置されており,ウォーカーヒルホテルから直接つながっている。入り口でパスポートを提示することで無料で入店が可能となるが,その確認は,シンガポールと比べると非常にアバウトなものであった。店内は撮影禁止であり,天井を見ると,多数の監視カメラによってすべてのテーブルが厳重に監視されていることが見てとれた。
店内には,スロットマシンとルーレット,カードゲームのテーブルが置かれ,ポーカー,バカラ,ブラックジャックなどが行われていた。VIPルームが存在し,その内部までは観察できなかったが,一般のテーブルにおいては,ミニマムベット300万ウォン(約30万円)が最も高額レートのテーブルであった。無料のドリンクバーが設置されていた他,目についたものとして,店内にATMが設置されていた。
客層は,中国系が最も多く,次いで東南アジア系,日本人と続く。ドレスコードはおそらくないと思われるが,カジュアルな服装の客が目立った。店内は決して広いとは言えず(それでも外国人専用カジノの中では3番目の広さである),客数とゲームテーブル数のバランスが悪いように感じた。24時間営業とのことであり時間帯にもよるのだろうが,我々視察チームが入店した午後9時から10時頃にかけては,店内は客でごった返し,ゲームテーブルに客が群がりなかなかゲームに入れないという状況が発生していた。

両カジノ共に,あくまでも仕事として,勝負を挑んできました。スロット,ルーレット,ブラックジャック(それ以外はルール不明で手が出せず),全くいいところもなく,合計して2万円くらいの敗北でした。私がギャンブラーとして身を立てていくのは難しそうです。

それにしても,私が遊んだのはあくまでも一般客向けルームでしたが,そこですら,一枚日本円で10万円くらいのチップを山積みして無造作にゲームに興じているお客さんが多数いました。VIPルームでは一体いくらのお金が動いているのやら。大多数のお客さんはお行儀もよく,まあカジノに「遊びに来た」のだと思いますが,中には,全財産をかけ,あるいは借金をして,まさに命を掛けてカジノに来ている人もいるはずで,そう考えると,あのカジノの賑わいにはとても複雑な気持ちにさせられました。
今,日本では,シンガポールなどを手本としたカジノ解禁の議論がなされていますが,どうも私には,カジノによる経済復興というのは不健全な考え方に思われます。ただでさえ日本ではパチンコというギャンブルが全国津々浦々に蔓延しており,多数の(一説には536万人ともいわれているようです)ギャンブル依存症患者を生み出しています。
今回の海外視察でみてきたカジノはとても華やかで魅力的な空間でしたが,日本に持ち込むにはいささか危険なものではないか,と感じたところでした。