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「医療保護入院の落とし穴(弁護士 真早流 踏雄)」

  • 2020.3.30

私は,ある精神科の病院に入院されているAさんから退院請求の依頼を受けました。
Aさんは,大手の会社に長年勤務され定年退職されて,ご家族と一緒に暮らしておられました。
Aさんは,ご家族から「内科で診てもらいましょう」と言われて病院まで連れて来られ,そのまま強制的に入院させられてしまいました。
Aさんに面会してお話をお聞きしたところ,しっかり話され特に病的なものは感じませんでした。
Aさんはご家族の同意で医療保護入院させられたわけです。
面会するたびにAさんは「自分は病気ではない」と言われます。
また,受け答えもしっかりされているのですが,ご家族はAさんが一種の認知症であると言われます。
私は,このようにAさんとご家族で言われることが違うのは,Aさんに病識(自分が病気であることの自覚)がないためであろうと安易に考えていました。
ただ,Aさんが退院を求めておられることから,私は,県知事を相手にAさんを病院から退院させるように申立てをしました。
その後,病院の方からAさんの診断名について,認知症がなくなり,代わって人格障害がついたと教えられました。
私は,主治医の先生からお話をお聞きする必要があると思いましたので,面会をお願いしたのですが,多忙等を理由に最後まで会うことができませんでした。
退院させるかどうかを判断する医療審査会の準備のために情報開示を申し込んだところ、県の条例では本人からの請求は認められるが,本人から委任を受けた任意代理人からの請求は認められないと言われてしまいました。
そこで仕方なく,Aさんに自分で情報開示を請求するように,そのための書類をお渡しし,カルテの開示であれば任意代理人でも可能ということでしたので,私はAさんの代理人として病院にカルテの開示を請求しました。
しかし,情報開示請求については,Aさんから断念することを告げられました。(もともとご本人で請求させることには無理があったように思います。)
また,カルテ開示請求については,職員の方を介して主治医の作成された診断書を1枚渡されただけでした。
情報が入らないまま時間が過ぎていき,医療審査会が派遣された医師と弁護士が病院を訪れ,Aさんやご家族らから事情聴取をされました。私はAさんが事情を聴かれるのに立ち会うことができました。
翌日,審査会が何時開かれるのか確認するために,担当の事務局に連絡を取ったところ,審査会は書面のみで行われるので,Aさんも私も立ち会うことになっていないと聞かされ,びっくりしました。また,意見があるなら書面で出すように言われましたので,急遽,意見書を書いて提出しました。
このころになると,私は,Aさんは認知症でもなければ人格障害でもないと思うようになりました。
ただ,Aさんは,年を重ねるうちに短気になり,柔軟性を欠いて,ご家族やご近所とうまくいかずにトラブルになってしまい,それをご家族は病気のせいであると思い込まれ,そのご家族から事情を聴かれた主治医も誤った診断をされたと思いました。
そこで,私は,Aさんは病気でもないのに強制的に入院させられ,重大な人権侵害を受けている恐れが強いことを意見書に書き,早急に退院させるよう求めました。
結局,審査会ではAさんの退院請求が認められました。

ある日,突然,精神科病棟に強制的に入院させられ,いくら病気ではないと言い張っても病識がないからであるとして退院が認められなかったとしたら,どんなに恐ろしいことでしょう。
医療保護という制度は,家族が善意で判断を誤らないことを前提とする制度であり,その判断に誤りが生じると大変な人権侵害になる落とし穴が存在することを教えてくれた事件でした。